[コラム]なぜ日本の再エネ導入は遅れるのか|制度・系統制約・市場の課題を整理
2025.12.23
なぜ日本の再エネ導入は遅れるのか|制度・系統制約・市場の課題を整理
日本でも太陽光や風力など再生可能エネルギー(再エネ)の導入は進んできました。しかし「もっと増やせるはずなのに、なぜ伸びが鈍いのか」という声は根強くあります。結論から言えば、再エネそのものの技術が足りないというより、電力の受け皿となる系統(送電網)・調整力(需給バランス)・立地や手続き・費用負担の設計といった“制度とインフラの詰まり”が複合的に効いています。ここでは、現場で起きているボトルネックと、制度上の課題を整理します。
1. 最大の壁は「系統制約」――つくれても運べない、使い切れない
再エネは、良い場所(風が強い、日射が多い)ほど発電に向きます。ところが日本では、発電適地が需要地(大都市圏)から遠いケースが多く、送電線の容量不足が導入の上限になりやすい構造があります。
加えて、再エネは天候で出力が変動します。需要が少ない時間帯に発電が集中すると、電力の需給バランスを保つために「出力制御(発電を止める・絞る)」が行われます。事業者から見れば、設備を作っても売れる電気が減り、投資回収の見通しが悪化します。こうした「つくった電気をさばけない」状態は、導入拡大の心理的なブレーキになりやすいのが実情です。
2. 送電網の増強は時間がかかる――計画から工事までが長期戦
系統増強は、鉄道や道路整備と同じで、計画・用地・調整・工事・運用まで時間がかかります。しかも再エネの増加ペースが速いと、増強が追いつかず、接続の待ち行列や「接続できる地域/できない地域」の差が広がります。
この問題に対し、広域での系統整備(いわゆるマスタープラン)を軸に投資を進める動きは強まっていますが、工事リスクや資金調達の難しさ、工期の長さが依然として大きな課題です。結果として、導入意欲があっても「系統が空くまで待つ」「出力制御が増える前提で採算を引き直す」といった“慎重モード”に入りやすくなります。
3. FITの“成功”が残した宿題――国民負担と市場統合
日本の再エネ拡大を押し上げた代表的な政策が、固定価格買取制度(FIT)です。投資回収が見通せる仕組みとして導入初期に効果を発揮した一方で、買取費用の増加は電気料金に上乗せされるため、国民負担(再エネ賦課金)という形で課題が顕在化しました。
この負担を抑えつつ再エネを増やすには、再エネを“電力市場の中で扱う電源”として統合し、価格シグナルや需給調整と結びつける必要があります。そこで進められているのが、FIP(プレミアム)制度への転換です。
ただし、FIPはFITよりも市場変動リスクを事業者が負うため、金融調達が難しくなる、収益見通しが不安定になるといった副作用が出やすい面もあります。制度転換は正しい方向でも、移行期には導入スピードが鈍る局面が生まれがちです。
4. 「未稼働案件」問題――制度の穴が投資の質を下げた
再エネの導入拡大局面では、認定を取ったまま運転開始に至らない案件(未稼働)が積み上がり、系統容量を“予約”した状態が長く続くことが問題になりました。これにより、本当に建てたい事業者が接続できない、地域の合意形成が進まない、といった非効率が生まれます。
未稼働案件への対策(一定条件で認定を失効させるなど)は進められていますが、制度が変わると「ルール変更リスク」を投資家が意識しやすくなり、結果として新規投資が慎重になる側面もあります。再エネを増やすには、単に“量”を追うのではなく、稼働確度の高い案件を選び、系統・地域・環境配慮と整合する形で積み上げる制度運用が不可欠です。
5. 立地・環境アセス・地域合意――「作れる場所」が限られる
再エネはクリーンと言われますが、事業は土地や海域を使います。景観、騒音、自然環境、漁業・航路との調整など、地域ごとの論点が必ず生じます。特に風力(陸上・洋上)は環境影響評価や地域合意形成のプロセスが長く、ここで時間がかかるほどコストも膨らみます。
さらに日本では、自然条件が複雑で災害も多い。台風・豪雨・地震への耐性、保守点検体制、撤去や原状回復まで含めた責任設計が求められます。結果として、机上では有望な立地でも、実装段階で難易度が跳ね上がるケースが少なくありません。
6. 調整力が足りない――再エネの変動を吸収する仕組みが不足
再エネが増えるほど重要になるのが、需給バランスを保つ「調整力」です。代表例は蓄電池、揚水発電、需要側の制御(デマンドレスポンス)、火力の柔軟運転などです。
しかし、これらは“発電設備を建てれば終わり”ではなく、系統運用・市場設計・ルール整備とセットで機能します。調整力が十分に整わないまま再エネだけを増やすと、出力制御が増え、経済性が悪化し、導入が鈍る――という悪循環に陥りやすいのです。
7. 制度上の課題は「一体設計」不足――発電・系統・市場・地域の分断
日本の再エネ導入が伸び悩む背景には、発電(つくる側)だけを進めても、系統(運ぶ側)、市場(売買の仕組み)、地域(合意形成)のどこかが詰まれば全体が止まる、という構造があります。
いま必要なのは、再エネを「環境に良い電源」として増やすだけではなく、「安定供給と価格の両面で社会に受け入れられる形で増やす」ための一体設計です。具体的には、①系統増強の確実な実行、②出力制御を減らすための調整力投資、③市場統合を進めつつ投資予見性を高める制度、④地域と環境に配慮した立地ルール――これらを同時に前に進める必要があります。
まとめ:伸びないのではなく、「詰まっている」
日本の再エネが思うように伸びない最大の理由は、意欲や技術不足ではなく、系統制約・調整力・手続き・費用負担・投資予見性といった“詰まり”が同時多発している点にあります。
制度面では、国民負担を抑えながら再エネを主力化するために、FITの遺産を整理し、FIPなど市場統合を進めつつ、系統投資と調整力投資が回る設計を強めることが重要です。再エネを「増やす政策」から、「増えても困らない電力システムへ作り替える政策」へ――ここが日本の次の焦点になります。
出典(参考リンク)
- 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/basic_plan/ - 経済産業省「第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました(2025年2月18日)」
https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218001/20250218001.html
