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[コラム]千葉・館山市でクジラ4頭が座礁──地震との関係は?専門家の見解と今後の対応

2025.08.05

2025年7月29日、千葉県館山市の平砂浦(へいさうら)海岸で、体長7~8メートルのクジラ4頭が座礁しているのが発見されました。SNS上では翌30日に発生したロシア・カムチャツカ半島沖の地震(M8.7)とクジラの座礁の関連を疑う声が広がりましたが、専門家は「因果関係を示す証拠はない」と明言しています。

この記事では、今回のクジラ座礁の事実、地震との関連性の有無、専門家の見解、そして過去の類似事例や今後の対応について詳しく解説します。

マッコウクジラのイラスト

クジラ座礁の経緯と状況

座礁が発覚したのは、2025年7月29日午後6時半ごろ。千葉県警館山署に「平砂浦海岸の浅瀬にクジラ4頭が打ち上がっている」との通報が入りました。現場に駆けつけた警察官の目視によれば、クジラたちはまだ生きている様子だったといいます。

確認されたクジラは、体長が約7~8メートルで、国立科学博物館の田島木綿子・研究主幹によると、マッコウクジラ(Physeter macrocephalus)とみられます。
マッコウクジラは館山沖でも目撃例がある種ですが、同じ海岸に複数頭が座礁するケースは初とのことです。

 

地震との関連性はあるのか?

今回の座礁に対して、SNSでは「大地震の前触れではないか」「海底の異変を察知して逃げたのでは」といった推測が多数投稿されました。実際、地震が発生したのは座礁が確認された翌日の7月30日午前で、場所は日本から遠く離れたロシア・カムチャツカ半島沖(M8.7)でした。

しかし、田島氏は「座礁が地震の前兆である証拠はない」として、次のように語っています。

「地震による海底の異常音が原因の可能性を完全に否定することはできませんが、直接的な因果関係を示すデータは今のところ存在しません。科学的な検証が困難な事象です」

また、北海道大学の特任助教であり、NPO法人ストランディングネットワーク北海道の理事を務める黒田実加氏も、「鯨類の座礁は日本全国で1日1件程度の頻度で確認されており、珍しい現象ではない。地震との関係性を示す根拠は乏しい」と明言しています。

 

過去の類似事例と科学的な見解

過去にも「海洋哺乳類の座礁と地震」の関連が注目された事例があります。
たとえば、日本大震災(2011年)の発生前、茨城県でカズハゴンドウ(イルカの一種)約50頭が座礁した事例がありました。この出来事も当時「地震の前兆では?」と話題になりましたが、2015年に東海大学などの研究チームが検証し、「地震との関係は認められない」という結論を出しています。【出典:東海大学海洋研究所報告 第36号】。

また、海洋哺乳類が座礁する主な理由としては、以下のような要因が指摘されています。

  • 音響異常(ソナーや軍事演習による影響)

  • 群れのリーダー個体の方向誤認

  • 病気や衰弱による泳力低下

  • 磁場の異常

  • プラスチックごみや重金属の影響など環境要因

いずれにしても、「地震=座礁の原因」とするには科学的な裏付けが不十分であり、慎重な調査が求められています。

 

専門家が警鐘──誤情報による二次被害も懸念

専門家チームではさらに、SNSなどでの過剰な関連付けによって現場に見物客が押し寄せる危険性を警告します。

「津波注意報が出ている中で現場に行く人がいたら非常に危険です。また、生きているクジラの尾びれは非常に強く、叩かれたら重傷を負う可能性があります」

実際、30日午前には太平洋沿岸で一部に津波注意報が発令されており、安全確保のためにも不用意に海岸に近づくことは避けるべき状況でした。

 

クジラの死因解明と行政の対応

今回座礁したマッコウクジラについて、千葉県は現地調査と解剖による死因解明を進める方針です。性別・年齢・血縁関係・胃内容物・病原体の有無など多角的な視点から情報を収集し、座礁の原因解明につなげるとしています。

死亡が確認された場合は埋設による処理が検討され、生存が確認された場合は専門家の意見を踏まえて適切な救助対応が取られる見通しです。

 

まとめ:科学的根拠なき憶測より冷静な対応を

クジラの座礁と地震の関係は、確かに一般の人々にとっては不安を誘う現象です。
しかし、現時点での科学的知見や過去の検証結果からは、明確な因果関係を裏付ける証拠は確認されていません。

SNS上の情報に過剰に反応するのではなく、冷静な対応と正しい知識が求められます。座礁が発見された現場に不用意に近づかず、自治体や専門機関の情報に耳を傾けることが、私たちにできる最も有効な対策です。

 

参考

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