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[コラム]【奈良・平群町】メガソーラー開発で2度の土砂流出|繰り返される災害と住民の不安

2025.07.15

【奈良・平群町】メガソーラー開発で2度の土砂流出|繰り返される災害と住民の不安

奈良県平群町で進められている大規模メガソーラーの開発をめぐり、造成地からの土砂流出が2度発生し、地域住民や専門家の間で懸念が高まっています。
環境破壊や災害リスク、行政の対応の在り方が問われる中、開発の是非が改めて注目されています。

 

大規模な太陽光発電事業で発生した土砂流出

奈良県平群町の山林に広がる約48ヘクタールの敷地で、約5万3,000枚のパネルを設置する大規模な太陽光発電所の造成工事が進行中です。このプロジェクトでは、約2万kWの電力供給を目指しており、関西圏のベッドタウンにある自然豊かな地域での開発が計画されています。

しかしながら、2024年11月と2025年5月、造成地からの土砂流出事故が2度発生。町道や農地、水路に大量の土砂が流れ込み、住民の生活環境や農業に深刻な影響を与えました。

 

原因は「谷埋め盛土」や不十分な排水対策か

現地調査や専門家の分析によれば、造成地では「谷埋め盛土」と呼ばれる、渓流の上に土砂を盛る工法が採用されており、これが崩壊の原因とされています。

さらに、盛土に使用されたのは「真砂土(まさど)」と呼ばれる浸透性の高い土壌で、中に雨水がたまりやすく、崩落のリスクが高いことが指摘されています。実際、現地では盛土から水が噴き出した痕跡も確認されており、排水対策の不備が災害を招いた可能性があります。

また、造成地の調整池に土砂が流れ込み、仮設の土堰堤が破堤したことも被害を拡大させたとみられています。

 

景観と歴史的価値にも影響

問題となっている山林は、平群町を象徴する「平群の山」として、古来から地元住民に親しまれてきた場所です。地域には古道や修験道の寺院へと通じる里道があり、かつてはハイキングコースとしてもにぎわっていました。

また、奈良県の公式記録には古事記に登場する倭建命が詠んだとされる歌に「平群の山」が登場するなど、文化的・歴史的な背景も深い地域であり、単なる開発地以上の意味を持つ場所といえます。

 

住民が県に盛土規制法の適用を要望

過去の教訓として、2021年7月に発生した静岡県熱海市での土石流災害以降、「盛土規制法」が制定されました。これにより、都道府県は盛土に対する安全管理を指導・命令できるようになりました。

奈良県も2025年5月に県内全域を規制区域に指定。これを受け、地元住民や専門家らは盛土規制法に基づく立入調査や是正命令を求める申し入れを県に行いました。特に、すでに2回も土砂災害が発生していることから、事業者の自主的な安全管理に限界があるとの声が強まっています。

 

過去の申請書に不適切な記載も発覚

この開発計画を巡っては、過去に提出された林地開発許可申請書に明らかな誤記や不適切な数値記載があったことも明らかになっています。

例として、面積単位に「ha²(ヘクタールの二乗)」という実在しない単位が使われていたり、下流22地点すべてに対して「18%勾配(180パーミル)」という極端な値が一律で記載されていた事例などがあります。

こうした誤記は、本来であれば書類審査の段階で排除されるべきですが、当初の申請は許可され、のちに再申請を経て再び許可が下りました。この過程に対して、行政の審査体制の不備を疑問視する声も強まっています。

 

裁判では県の許可は「裁量の範囲内」と判断

住民は奈良県に対して、林地開発許可の取り消しを求める訴訟も起こしており、2023年には地裁で審理が始まりました。

しかし2025年3月、地裁は「奈良県の審査や許可は裁量の範囲内であり、逸脱や乱用は認められない」として住民側の訴えを退ける判決を下しました。これを不服とした住民側は控訴しており、今後は大阪高裁での審理が予定されています。

 

林地開発許可制度の課題と今後の注目点

林地開発許可制度は、災害の防止や水資源の確保、環境保全などの観点から、開発を適切に管理するために重要な制度です。

しかし、現実には「形式的に要件を満たしていれば許可せざるを得ない」という構造があり、実質的な安全対策やリスク評価が後手に回るケースも少なくありません。

今回の平群町の事例では、調整池の設計や排水処理の妥当性、安全性の確保、行政の審査体制の信頼性など、全国の開発にも関係する重要な課題が浮き彫りとなっています。

控訴審の結果や、盛土規制法の今後の運用強化が、再発防止や制度改善につながるかが注目されます。

 

まとめ

奈良県平群町で進むメガソーラー開発は、地域住民の安全・環境・文化への影響といった複数の問題を内包しています。繰り返される土砂流出事故は、単なる一事業のリスクにとどまらず、全国的な太陽光発電開発の在り方、そして行政と住民の信頼関係の構築における課題を投げかけています。

参照:奈良メガソーラー造成現場で「土砂2度流出」… それでも止まらない開発の行方

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