[コラム]奄美群島からの生き物持ち出しに警鐘|地域一体で自然遺産を守る新たな取り組み
2025.06.17
世界自然遺産・奄美群島で希少生物の大量持ち出しが相次ぐ
世界自然遺産に登録されている鹿児島県の奄美大島や徳之島では、クワガタやオカヤドカリ、アマミシリケンイモリといった希少な動植物の大量捕獲と島外持ち出しが問題となっています。2025年5月には、国の天然記念物「オカヤドカリ」を約5,000匹も違法に捕獲・所持したとして、中国籍の3人が逮捕される事件も発生しました。
このような事態を受け、地元自治体や環境省、民間企業が連携し、「生き物を島の外へ持ち出さないでほしい」という共同声明の発表に向けて動き出しています。
声明の主旨|「島の自然は1つの生態系である」
共同声明では、奄美群島の自然が長い年月をかけて形成された独自の生態系であることを強調。1種の動植物が消えるだけでも、生態系全体に悪影響を及ぼすリスクがあるとしています。そのため、「すべての島の生き物を持ち出さないように」と呼びかけており、捕獲や販売目的の持ち出しを控えるよう強く訴えています。
空港での検査・監視体制と課題
奄美空港では、2021年から全国でも珍しい水際対策が導入されており、空港職員が荷物検査で生き物を見つけた場合、環境省や自治体と連携してリアルタイムで種の確認を行っています。
この制度は、種の保存法や文化財保護法に該当する生物の違法持ち出しを防止するためのものです。
しかし、法律で規制されていない種については、持ち出しが合法となっているため、販売目的での過剰な持ち出しが現実に多発しています。2023年には、準絶滅危惧種「アマミシリケンイモリ」約1,000匹が貨物として島外に運ばれたケースも報告されています。
日本航空が声明発表を提案|住民・観光客への意識共有を促進
声明の発起人である日本航空鹿児島支店・奄美営業所の栄正行所長は、「空港で商用目的の持ち出しが頻発しており、島全体で自然を守る意識づくりが必要だ」と語ります。声明は空港や観光施設でのポスター掲示、ホームページ掲載などを通じて、観光客や島民に広く周知される予定です。
栄所長は「観光客の皆さんには、生き物を捕まえて持ち帰るのではなく、島内で観察し楽しんでもらいたい」とコメントしています。
WWFも高評価|声明は“地域の総意”として機能する先進的事例
野生動物の取引監視を行う環境NGO「WWFジャパン」も今回の声明を高く評価しています。調査によると、奄美群島の爬虫類・両生類の多くがペット市場で取引されており、密輸・密猟の温床となっている現実があります。
WWFの小田倫子氏は「法規制だけでは限界があるが、地域全体で“持ち出しを拒む”意思を示すことで抑止力になる。世界的に見ても模範的な取り組みであり、他の地域にも広がってほしい」と語っています。
まとめ:自然遺産を守るのは、地域と訪問者の“共通意識”
奄美群島は世界に誇る自然遺産であり、そこに生きる動植物は生態系の中で重要な役割を担っています。今回の声明は、法的強制力を持たない“呼びかけ”ですが、地域・民間・行政が一体となって守る姿勢を示す大きな意義があります。
訪れる人々がその意図を理解し、現地の生き物を尊重することが、奄美群島の生物多様性と観光資源を未来へとつなげる第一歩です。