[コラム]【2025年版】砕氷研究船「みらい2」が描く北極研究の最前線と気候変動対策
2025.05.21
はじめに|北極の未来を探る、日本初の砕氷研究船
地球温暖化が加速する中、北極域の観測は気候変動の全貌を把握するために極めて重要です。そんな中、日本初の砕氷能力を持つ研究船「みらい2」の建造が進行中です。従来の観測では踏み込めなかった海氷域へのアクセスを可能にし、国際的な気候研究に貢献する画期的なプロジェクトです。
「みらい2」とは?最新鋭の砕氷研究船の概要
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全長:128メートル
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総トン数:13,000トン
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建造費:339億円
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乗員数:97人
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建造元:ジャパンマリンユナイテッド(横浜市)
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進水式:2025年3月19日、横浜市磯子区にて
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引き渡し予定:2026年11月
また、進水式には天皇・皇后両陛下の長女、敬宮愛子さまも臨席され話題を呼びました。
従来の「みらい」との違いは?砕氷能力が最大の進化
旧「みらい」は原子力船「むつ」から改装されたもので、世界最大級の海洋観測船として活躍してきましたが、砕氷能力は持っていませんでした。
一方、新しい「みらい2」は
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厚さ1.2メートルの海氷を砕氷しながら時速5.6キロで航行可能
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ポーラークラス4相当の耐氷性能
という特性を持ち、本格的な北極海氷域の調査が可能です。
LNG二元燃料エンジン搭載|環境負荷低減にも配慮
「みらい2」はディーゼルとLNG(液化天然ガス)の二元燃料エンジンを採用。これにより、環境への負荷を軽減しながら持続可能な観測を行えるよう設計されています。
さらに、以下の装備が観測精度を飛躍的に向上させます。
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ドップラーレーダー
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魚群探知機
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無人潜水艇(ROV)
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ヘリコプター
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海氷上に研究者を降ろすマンライディングバスケット
なぜ北極研究が重要なのか?|気候変動の最前線
海氷の床暖房現象が進行中
近年、太平洋から流れ込む暖流が北極の海氷を下から溶かす「床暖房」現象が観測され、氷の減少に拍車をかけています。これは衛星観測では捉えにくく、現地での詳細な観測が求められます。
大気中の煤が氷を溶かす?
世界各地の森林火災による煤(すす)が北極に到達し、氷の融解を加速させる可能性も報告されています。これも「みらい2」の研究対象の一つです。
北極海航路の開発と安全確保
夏季に開通することがある北極海航路(アジア〜ヨーロッパ間の近道)。現在、人工衛星による観測に頼るしかありませんが、衛星データと実際の航行可能性に食い違いがあるとされ、現地観測の必要性が高まっています。
観測計画と国際連携の展望
「みらい2」の運用は、JAMSTEC(海洋研究開発機構)と国立極地研究所の共同で進められます。
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初の北極航海:2027年予定(北極点到達目標)
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国際極年:2032~2033年の第5回に向け、年間観測計画を策定中
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人材育成:長期運用を見据えた若手研究者の育成も始動
極海氷域の最小記録と衛星観測の強化
2025年3月、北極海の冬季氷域面積が1379万平方キロメートルと史上最小を記録(JAXA調査)。これを観測したのは、水循環変動観測衛星「しずく」と、今後打ち上げ予定の「GOSAT-GW」。
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「AMSR2」:マイクロ波による海氷の精密観測
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「GOSAT-GW」:新たにAMSR3を搭載し、2025年6月に打ち上げ予定
日本人と北極探検の歴史|再び北へ向かう志
南極観測船「しらせ」はよく知られていますが、日本人が初めて目指した極地は実は北極。明治の探検家・白瀬矗の志を受け継ぎ、「みらい2」が未来の地球環境保全へと貢献していきます。
まとめ|「みらい2」が切り拓く未来の地球研究
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砕氷能力を持つ日本初の研究船
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北極研究の空白を埋める国際的観測拠点
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気候変動の最前線で地球全体への影響を探る
北極はもはや“遠い存在”ではありません。「みらい2」は、私たちの未来を左右するデータを集める最前線の船として、科学と地球の未来をつなぐ架け橋となるでしょう。
参照:北極の実像を究めよ わが国初の研究用砕氷船「みらい2」建造進む