[コラム]マイクロプラスチック汚染の海外事情とは?世界中で進行する問題と私たちにできる対策
2025.05.09
マイクロプラスチック汚染の海外事情とは?世界中で進行する問題と私たちにできる対策

THE NEW YORK TIMESでは、海を埋め尽くすゴミが写真とともに報じられていました。
私たちの日常出すゴミが、最終的にどこへ行くのか、立ち止まって考える機会を与えてくれています。
廃棄物処理のこれまでの背景や海外で起きた問題の中には、プラスチックのゴミも含まれ、現代で課題となっている、マイクロプラスチックの問題へと結びついていきます。
本記事では、現在のマイクロプラスチック問題に至るまでの経緯、そして私たちにできる対策までをわかりやすく解説します。
参照記事:Opinion【All your trash is probably still out there】
THE NEW YORK TIMES INTERNATIONAL EDITION MONDAY,FEBRUARY 17,2025
マイクロプラスチックとは?プラスチックとの違いと環境への影響
プラスチックとは、合成または半合成の有機高分子材料の総称で、日常生活で使用されるペットボトル、レジ袋、容器包装など様々な製品に利用されています。
軽量で耐久性があり、コストが低いことから世界中で広く普及していますが、その廃棄物処理が大きな環境問題となっています。 中でも近年特に問題視されているのが「マイクロプラスチック」です。これは大きさが5mm以下の微細なプラスチック粒子のことで、主に以下の2種類に分類されます。
分類 | 定義 | 代表例 |
---|---|---|
一次マイクロプラスチック | 最初から小さなサイズで製造されるもの | 洗顔料や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズ(スクラブ剤) |
二次マイクロプラスチック | 大きなプラスチックが自然環境で分解・破砕されてできるもの | 海に流出したペットボトル、レジ袋などが劣化して生じる |
マイクロプラスチックの主な問題点は、その微小サイズゆえに環境中から除去することが非常に困難な点です。
海洋生物が餌と間違えて摂取し、食物連鎖を通じて生態系全体に広がります。また、表面に有害物質を吸着する性質があり、環境や人間の健康にも影響を与える可能性が懸念されています。
国境を越えるプラスチックごみ:西欧諸国から発展途上国への廃棄物輸出
1980年代、西欧諸国ではプラスチック製品の生産と消費が急速に増加しました。
それに伴い、大量のプラスチックごみが発生するようになります。 しかし、それらのごみは国内の処分場に埋められることなく、輸出されていきました。 環境規制の強化や処理コストの増大を回避するため、廃棄物を国外へと送り出す動きが広 がったのです。 輸出先は主に中国、インド、フィリピン、マレーシアなどのアジア諸国。 これらの国々では、病院や学校の建設などを条件に、ごみの受け入れが進められました。
輸入されたごみは、安価な労働力によって手作業で分別され、再利用できるプラスチックが選別されていきました。 しかしその背景には、劣悪な労働環境や健康被害といった深刻な問題も隠れていたのです。
プラスチックゴミとバーゼル条約(Basel Convention)
ゴミの輸出を受け入れを続けてきた国々の末路は、不適切な処理による環境破壊や人体への健康被害といった最悪の結果でした。
憤慨した数十の発展途上国が一致団結して、産業廃棄物輸出の停止を訴える事態へと進んでいきます。 その結果生まれた「バーゼル条約(Basel Convention)」(※1)が1992年に発効し、世界中のほぼ全ての国々が批准しました。
この条約によって、先進国から発展途上国への有害な産業廃棄物の輸出が違法化されていきました。 また、2021年1月からは改正もされ、汚れたプラスチックゴミ輸出には、相手国の同意が必要となりました。
中国、東南アジア諸国のプラスチックゴミ輸入規制
プラスチックゴミは、2017年末の中国輸入禁止を皮切りに、その後受け皿となってきた東南アジア諸国も次々と輸入規制強化を進めています。
しかし、今日でも、プラスチックゴミの中にはリサイクル可能という名目のもと輸送されているものもあります。 石油価格の高騰とともに、プラスチックゴミが資源として再注目されたり、リサイクル業者の仕事の礎として継続がなされていたりします。
(※1-P21,P139)バーゼル条約(Basel Convention)は、有害廃棄物の越境移動および処分を規制することを目的とする国際的な枠組みです。とりわけ、発展途上国が先進国から不適切に持ち込まれた有害廃棄物により被害を受ける事態を防ぐため、不適切な処理の抑制を図っています。
海外マイクロプラスチックの現状|各国東南アジアでの事例
THE NEW YORK TIMESのレポートでは以下のような事例がありました。
ベトナム
中国が2018年に廃プラスチックの輸入を禁止して以降、ベトナムは世界の主要なプラスチック廃棄物の輸入国となりました。
これに伴い、ホーチミン市の主要港では廃プラスチックの受け入れが制限され、全国的に輸入廃棄物の管理が強化されました。 しかし、大量に輸入された廃プラスチックは国内の処理能力を超え、一部は適切に処理されず海に流出し、マイクロプラスチック問題の原因となっています。 環境汚染を防ぐため、輸入廃プラスチックの品質基準は厳格化されましたが、リサイクル施設の処理能力が追いつかず、不適切な処理によって海洋汚染が続いている現状です。
こうした課題への対応として、ベトナム政府は「輸入廃棄物を使用する製造施設を有する組織または個人」にのみ輸入を認めるなど、規制を継続的に強化しています。
参考:東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少 JETRO 日本貿易振興機構(ジェトロ)
参考:中国の廃プラ輸入規制(3) 海外での廃プラスチックリサイクル~ベトナムの実例~DOWA
トルコ
トルコは不適切に管理されるプラスチック廃棄物の量が多く、地中海のプラスチック汚染の主要な発生源とされています。
国内外で年間370万トンの廃プラスチックが発生しますが、リサイクル率はわずか6%で、61%が埋め立て、33%(110万トン超)は未回収または野外投棄されています。 中国が2017年に輸入を禁止して以降、英国からの輸出は2016年の12,000トンから2020年には210,000トンへと急増し、多くが不法投棄や野焼きされている実態が確認されています。国内ではレジ袋への課金制度により使用量が77%減少するなど一定の成果があるものの、輸入廃棄物による環境汚染は依然として深刻です。
参考:Investigation finds plastic from the UK and Germany illegally dumped in Turkey Greenpeace International
参考:Plastic Pollution Policy Country Profile: Turkey Duke
インドネシア
インドネシアは世界有数のプラスチック廃棄物輸入国で、年間約26万トンを受け入れてきました。
中国の輸入禁止後、欧米からの廃棄物がジャワ島やスマトラ島の村に集中し、「プラスチック村」と呼ばれる地域も生まれました。2017年末には月1万トンだった輸入量が、2019年末には3.5万トンに急増。 特に製紙工場が輸入する紙くずに混入したプラスチックごみが問題で、村に廃棄された後、燃料として燃やされ有害物質を放出しています。政府は2025年から輸入禁止を掲げていますが、実効性や国内の処理体制には課題が残っています。
参考:インドネシア、「トレジャー・イン・ザ・トラッシュ」 ガイヤ
参考:Foreign trash ‘like treasure’ in Indonesia’s plastics village Phys.org
参考:Indonesia’s Ban on Importing Plastic Waste Met With Cautious Optimism From Campaigners Diplomat
海外各国のマイクロプラスチック対策
マイクロプラスチックは、ただ海を汚すだけではなく、生物の生態系にも影響を及ぼしていきます。
餌と間違えた、魚や鳥、小動物などが食べてしまい、またそれらを大きな動物たちが食すことで、マイクロプラスチックの被害が派生していきます。 そういった被害を継続させることも懸念して、厳格な法制度のもと、目標を掲げて取り組む国々も出てきています。
ヨーロッパ(EU)
2019年施行、2021年より加盟国において適用開始 EU単一使用プラスチック指令(Directive(EU)) ストロー、皿など使い捨てプラスチック製品を禁止しています。
飲料ペットボトルについては、2025年までには、再生プラスチック使用を25%、2030年までには30%使用することを義務付けています。(※2-P8) 2018年発表、欧州プラスチック戦略(Europe Strategy for Plastics in a Cicular Economy) 2030年までに、プラスチックの循環利用を促進、マイクロプラスチックの排出削減を目指して、EU市場に出回る全てのプラスチック包装を、再利用可能なものやリサイクル可能なものにするという目標です。
ケニア(※3)
2017年施行:プラスチック製レジ袋の全面禁止(Environmental Management and Co-ordination Act(EMCA))
2017年、ケニアでは環境管理・調整法(EMCA)に基づき、プラスチック製レジ袋の製造・使用・販売・輸入を全面的に禁止する措置が施行されました。
この法律に違反した場合、高額な罰金や最長4年の禁錮刑が科される可能性があります。
この規制は外国人旅行者にも適用されるため、ケニアを訪れる際には特に注意が必要です。
2020年施行:使い捨てプラスチック製品の使用禁止(Environmental Management and Co-ordination(Plastic Bags Control and Management))
2020年には、同法の中で「プラスチック袋の管理・規制に関する規定(Plastic Bags Control and Management)」が施行され、国立公園、ビーチ、森林保護区、観光地などにおける使い捨てプラスチック製品の使用が禁止されました。
Q&A|海外マイクロプラスチック問題についての理解と取り組み
Q1:なぜ海洋マイクロプラスチックが問題となるのか?
A1:プラスチック廃棄物は、リサイクル可能という名目で輸送されることが多いですが、実際には発展途上国で不適切に処理されることが明らかで、まずそちらが問題とされています。 また、不適切に処理された廃棄物が、特に水路の詰まりや大気汚染など、深刻な影響を及ぼしていることも無視できない事態です。
自然分解されないまま、水中や大気中に浮遊する果てとなったマイクロプラスチックにより、環境と健康への代償は壊滅的なものとなっています。近年、世界中で早急に対策が求められており、私たちの身近な問題でもあるのです。
Q2:私たちが今すぐにでもできることは?
A2:まず、プラスチック製品の使用を減らすことです(Reduce)。
再利用可能な製品に代替し、プラスチック消費を減らしていくこと、マイクロビーズを含む化粧品や洗顔料などの使用も控えることができます。 次に、リサイクル製品の購入、分別回収に徹底協力することです。自分の消費、廃棄行動で、プラスチックの循環利用を促していきましょう。
Q3:日本社会ができることは?
A3: 政府ができることは、法規制強化とプラスチック代替素材の開発と普及を進めていくことです。
また私たちも、その社会の流れを作っていく一員となれるように努めます。 企業・研究機関の取り組みや研究開発も重要です。 それらを啓発していくこと、国際的協力の一環として技術や知識の共有、協定などの積極的参加と協力がとても大事です。
結び
海外でのマイクロプラスチック問題について述べてきましたが、これは、日本の私たちの身近でも起きている問題です。
現在、大阪では世界万博が開催されていますが、その大阪で2019年にG20大阪サミットが開かれていたのを覚えていますか?
その時も、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の共有と「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組」が支持されていました。
各研究機関や企業でも、マイクロプラスチック問題を取り上げて、日進月歩で解決に挑んで下さっています。 まずは知ること、当事者意識を持って自らが取り組むこと、そして広めて、皆で協力の和を育んでいくことだと思います。 このコラムがその一押しとなることを願って、今日からできることを始めていきましょう。
参考文献(※1):『みんなで考えたいプラスチックの現実と未来へのアイデア』高田秀重監修 東京書籍 2019年8月29日 第1刷発行
参考資料(※2):EUの食品包装プラスチック規制の概要 EUプラットフォーム・ブリュッセル事務局 P8
https://www.eu.emb-japan.go.jp/files/100738009.pdf
参考資料 (※3)Ban on plastic carrier bags nema
https://www.nema.go.ke/index.php?option=com_content&view=article&id=102&Itemid=121
参考資料(※4)「マイクロプラスチック問題の現状と対策」環境省 2023年5月29日
https://www.erca.go.jp/suishinhi/kenkyuseika/p
執筆者:Sping Lake